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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)14号 判決 1996年1月30日

原告

サッポロビール株式会社

同代表者代表取締役

荒川和夫

同訴訟代理人弁護士

吉原省三

小松勉

野上邦五郎

杉本進介

同訴訟代理人弁理士

松田治躬

被告

ハイネケン ブルウエリジェンベスローテンフエンノートシャップ

同代表者

ヘンドリクスピーター ヘルマン

同訴訟代理人弁護士

加藤義明

清水三郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

(一)  特許庁が平成一年審判第五二七六号事件について平成六年一一月八日にした審決を取り消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

被告は、別紙(1)に示す構成からなり、指定商品を商標法施行令(平成三年政令第二九九号による改正前、以下「旧施行令」という。)別表第二八類「ラガービール」とする商標登録第一六七二四七七号(昭和五五年七月一〇日指定商品を「ビール」として商標登録出願、昭和五八年二月二三日指定商品を「ラガービール」と補正、同年一〇月二八日登録査定、昭和五九年三月二二日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、原告は、平成元年三月二二日被告を被請求人として商標登録無効の審判を請求し、平成一年審判第五二七六号事件として審理された結果、平成六年一一月八日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年一二月二一日原告に送達された。

二  審決の理由の要点

(一)  本件商標の構成、指定商品、出願日、査定日、登録日等は、前項記載のとおりである。

(二)  請求人(原告)が、本件商標の登録無効の理由に引用する登録第一八五九一七三号商標(以下「引用商標」という。)は、別紙(2)に表示した構成よりなり、旧施行令第二八類「酒類(薬用酒を除く。)」を指定商品として、昭和五二年八月一九日に登録出願、昭和六一年四月二三日に設定登録され、現在有効に存続しているものである。

(三)  請求人は、「本件商標の登録を無効とする。」との審決を求め、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第一号証ないし第七号証(審判手続における書証番号、以下同じ、枝番を含む。)を提出した。

イ 引用商標は、「五稜星」の図形よりなり、「星」「スター」の称呼及び観念が生ずるものである。また、特に商品「ビール」については、引用商標の「五稜星」をはじめ、「星」及び「スター」の称呼、観念を生ずる商標は、請求人の商品を示す商標として、極めて周知、著名となっていること顕著な事実である。

ロ これに対し、本件商標は、ラベル全形の商標よりなるも、中央上段の最も目立つ部分に「五稜星」のマークを配し、その左右に「TRADE」「MARK」の欧文字を表示している。確かに、この「TRADE」「MARK」の欧文字がラベル全形に対する表示なる主張も考えられるが、同商標の他の要部である中央の「Heineken」の欧文字右上には、これも独立して「R」の文字が付されている如く、該「五稜星」部分も明らかに一要部を構成し、これを強調する意味合いで「TRADE」「MARK」の欧文字が付された構成となっていることは否定し得ない事実である。

ハ また、登録商標であることを目立たせ、注意を喚起する「登録表示」を行う手段として「TRADE」「MARK」の欧文字を図形の両側にバランス良く配してなる使用例は、極めて一般的である。これは、「ビール」を始めとする「酒類」においても同様であり、また、請求人が「五稜星」を使用する際にも、その表示中に同様に明示されているところである。

ニ かつまた、被請求人(被告)と請求人との間に争われた、本件商標と輪郭をやや異にし、本件商標の「五稜星」内に「HBM」を表示しただけが異なる昭和三四年商標登録願第三四〇五三号(その後、第五七五五二二号商標として設定登録された。)の登録異議事件においても、被請求人は、「五稜星」内に「HBM」が存しているから、「星HBM」の称呼、観念が生ずる旨主張している。このことは、本件の「HBM」表示を欠いた「五稜星」のマークから「星」の称呼、観念が生ずることを逆に肯定せざるを得ない主張となっている。

また、同登録異議の決定においても、本件主張とほぼ同一の部分が要部となり得ることを認め、ただし、「HBM」の表示されているが故に非類似とされたものである。

しかるに、本件においては、該部分が引用商標と、外観、観念、称呼のいずれにおいても同一と認められるものであるため、明らかに類似する商標といわざるを得ず、請求人の使用する「五稜星」の商標と出所の混同を生ずること必定の商標といわざるを得ない。

ホ したがって、本件商標は、商標法(平成三年法律第六五号における改正前の規定、以下同じ)四条一項一一号、または、同一〇号、同一五号に該当するので、商標法四六条一項一号により、その登録は無効とされるべきものである。

(四)  被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第一、第二号証を提出した。

イ 引用商標が、「五稜星」の図形よりなり、「星」「スター」の称呼、観念が生ずることは否定し得ないが、「五稜星」を含む商標がすべて同様の称呼、観念を生ずるかどうかは疑問なしとしない。

ロ まず、本件商標から生ずる称呼、観念については、「星印」の称呼あるいは観念を抽出することは妥当でないものと認められるとして否定されており、登録第五七五五二二号商標に対する無効審判(昭和三六年審判第四三七号事件)の審決においても、実際の取引に照らして「ホシ」「ホシジルシ」等の称呼、観念は生じないと結論されている。ここでいう実際の取引とは、商品「ビール」は一般にメーカーブランドで取引されるものであること、すなわち、サッポロ(ビール)、アサヒ(ビール)、キリン(ビール)、サントリー(ビール)等であり、さらに、種類でいえば生(ビール)、ラガー(ビール)、ライト(ビール)等で注文することはビール愛飲家なら日常経験するところである。また、「星」「スター」「Star」の文字、図形は商標として本質的には永久独占力を有しないもの、すなわち、夜空に輝く本来の意味である「星」から、その意味が今日では「トップ・スター」「スーパー・スター」のような言葉として広く使われることにより商品の品質を誇称表示したものと認識され、これは王冠(クラウン)マークと同様に付記的、装飾的に使用される場合、自他識別力を有するとは到底いい得ないものである。

そこで本件商標をみるに、その構成中の赤色で表示した部分は、一八七五年パリ万博でメダル・ドール(金賞)を、一八八三年アムステルダムでディプローム・ドナー賞を、一八八九年パリでグランプリ賞を、さらに、一九〇〇年同じくパリでのオールズ・コンクール・メンブレ・ド・ジュリ賞を受賞したことがメダルの図形とともに記載され、これらの輝かしい記録は勿論のこと、その品質が高く評価されたものであり、被請求人として「ハイネケン・ビール」は世界中が認める「Beer of Beers」であり、「ビールの中にトップ・スター」とこのラベルに語らせており、これは客観的にみても商品の品質を誇称したものである。また、被請求人はこれまで「ハイネケン・ビール」で宣伝することはあっても、「ハイネケン・スター・ビール」あるいは「スター・ビール」といった表現は一切使っていない。このことはビールメーカーの大手である請求人も充分承知していることであり、また、請求人自身も「サッポロ・ビール」の宣伝は広く行っているようであるが、「サッポロ・スター・ビール」あるいは「スター・ビール」の商品は見聞しないところである。

なお、請求人は、本件商標の「五稜星」がその左右に「TRADE」「MARK」の欧文字を配していることから、この部分が一要部を構成するとしているが、どの部分が登録商標なのかは不明であり、本件商標も「Heineken」の右肩にがあるからといって「五稜星」が登録商標とは限らず、商標全体が一般にビールのびんに付される「ラベル商標」であることを考慮すれば、全体が一体として登録商標と認識されるものであることは論を待たない。

以上、本件商標からは「スター」「星」等の称呼、観念が生ずるものでなく、引用商標及びこれと連合する商標ともいずれの点においても類似するものではない。

したがって、本件商標は、商標法四条一項一一号に該当しないことはもとより、両商標は非類似であるから、使用商品が同一または類似であるとしても、同一〇号または同一五号に該当するとする請求人の主張は失当と考える。

(五)イ  そこで、まず、本件商標が商標法四条一項一一号に該当するか否かについて検討するに、本件商標は、別紙(1)に示すとおり、緑色に着色された三本の縦型の楕円輪郭のうち、特に太く描かれた中央の楕円輪郭線内に「HEINEKEN LAGER BEER」の白抜き文字を上下対象となる位置に表示し、また、該楕円輪郭の中央を横切るように、黒く塗られたリボン状の横枠を配し、その内に白抜きで「Heineken」の欧文字を表示し、さらに該楕円輪郭とリボン状の横枠との間にできた上下の白抜き部のうち、上部の白枠内には、赤色の文字で「HORS CONCOURS MEMBRE DU JURY PARIS 1990」「GRAND PRIX PARIS 1889」の欧文字と「TRADE」「MARK」の欧文字並びに赤い細線で描かれ内側を白抜きにした五稜星図を配し、そして同下部の白枠内には、同じく赤色で「DIPLOME D'HONNEUR」「AMSTERDAM 1883」「MEDAILLE D'OR PARIS 1875」の各欧文字と、にわかにはその内容を特定し難い二つの円形の装飾図形を配してなるものである。

他方、引用商標は、別紙(2)に示すとおり、朱色の実線にて五稜星の輪郭を描き、その内側を白抜きにした構成よりなるものである。

してみると、本件商標は、その構成前記のとおり着色された図形と欧文字との結合よりなるものであるところ、楕円輪郭図とリボン状の横枠は、本件商標を構成する他のいずれも赤色にて表示してなる五稜星図と一連の欧文字及び円形の装飾図形とをバランス良くその内側に取り囲むように配してなるものであって、全体としてラベル的印象を与える商標であり、これら赤色にて表示してなる欧文字及び図形部分は、本件商標の構成する図形全体の中にあっては、上記楕円輪郭とリボン状の横枠中に一体のものとして融合されているように見えるところから、むしろ本件商標のラベル的構成の装飾的な部分として描かれているものとの印象を強く与えるものであるとするのが相当である。

そうとすれば、本件商標にあっては、取引者、需要者は、これらを一体のものとして観察し、以て商品の出所については、五稜星図の部分は独立して自他商品の識別機能を果たし得るものであるとするよりも、被請求人である「ハイネケン ブルウエリジエン ベスローテン フエンノートシヤツプ」の著名な略称と認められる楕円輪郭内及びリボン状の横枠内に白抜きで顕著に表示された「Heineken」または「HEINEKEN LAGER BEER」(なお「LAGER BEER」の文字部分は本件商標に係る指定商品を欧文字で表示したものと認められる。)の欧文字部分より生ずる称呼をもって取引に当たるものと判断するのが相当である。

してみれば、本件商標からは、「ハイネケン」もしくは「ハイネケンラガービール」の称呼のみが生じ、また、これよりは、格別、特定の観念を生ずるものとは認め難い。

したがって、本件商標から「ホシ」「スター」または「星」の称呼、観念が生ずることを前提に、本件商標と引用商標が類似すると主張する請求人の主張は、失当といわざるを得ない。

また、本件商標と引用商標は、別紙(1)(2)に示したとおりの構成よりなるものであるから、両者を全体として観察した場合には、その構成を明らかに異にするものであり、外観上も容易に区別し得るものである。

よって、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼、観念のいずれの点においても相紛れることのない非類似の商標であるから、本件商標は、商標法四条一項一一号に該当するものではない。

ロ 次に、本件商標が商標法四条一項一〇号及び同一五号に該当するか否かについて検討するに、本件商標と引用商標とは、上述のとおり明らかに区別し得る別異の商標というべきものであり、さらに、引用商標は、別紙(2)に示すとおり、赤色の実線にて描かれた、内側を白抜きにした五稜星図のみからなるものであって、本件商標が出願された時点において、該引用商標が商品「ビール」について、取引者、需要者間において広く知られたものであることを立証するための具体的な証拠の提出がなされていないばかりか、当庁において職権をもって調査するも、請求人主張の如く、引用商標が、請求人の商品を示す商標として極めて周知、著名となっていることの事実を発見することはできなかった。

してみると、本件商標は、商標法四条一項一〇号には該当しないものといわなければならない。

また、前記のとおり、本件商標をその指定商品に使用したとしても、他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある程に、引用商標が著名であることの事実を認めることはできないことから、本件商標は、同一五号にも該当するものとは認められない。

ハ なお、請求人は、引用商標以外に、これと連合する甲第二号証記載の登録商標をも引用する旨述べているが、その具体的請求の理由については何ら主張されていないこと、また、本件商標と個々の連合商標とを比較するも、両者は、その外観、称呼及び観念のいずれの点においても類似するものとは認められないばかりか、他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれはないとするのが相当である。

ニ したがって、本件商標は、商標法四条一項一〇号、同一一号及び同一五号の各号に違反して登録されたものとは認められないから、商標法四六条一項一号の規定によりその登録を無効にすることはできない。

三  審決の取消事由

審決は、本件商標の要部の認定、本件商標と引用商標との類比判断並びに引用商標の周知、著名性及び出所の混同についての認定判断を誤り、本件商標が商標法四条一項一〇号、同一一号及び同一五号のいずれにも違反して登録されたものとは認められないと誤って判断したものであって、違法として取り消されるべきである。

(一)  商標法四条一項一一号該当について

イ 本件商標

本件商標は、別紙(1)に示す色彩の構成よりなり、陸上競技場の如き縦長楕円形の外周部を巾広の「緑色地」にし、二本の白線で強調し、内部の「白色地」楕円形を明確に囲んでおり、この楕円形を中央で上下に二分する位置に「黒色地」リボン形状図形を左右に横断させ、上段「緑色地」、上段「白色地」、中央「黒色地」、下段「白色地」、下段「緑色地」の五つのブロックに分断している。

上下の分断された「緑色地」には、いずれも同一書体で、「HEINEKEN LAGER BEER」の欧文字を白抜きで重複して表し、中央の「黒色地」リボン形状には、「HEINEKEN」白抜き文字と右上欄にの記号を、上段の「白色地」には、赤色で「HORS CON-COURS MEMBRE DU JURYPARIS 1990」の文字を上縁に、「GRAND PRIX PARIS 1889」の文字を底辺に、これらの文字でカマボコ型輪郭を形成するように表し、その中央に左右に小さく「TRADE」と「MARK」の文字を添えた赤色輪郭線で「五稜星」を描いている。

下段の「白色地」には、すべて赤色で最上段「DIP LOME D'HON-NEUR」の下に小さく「AMSTER-DAM 1883」の文字を二段に、中間部に一部を重ね合わせた「コイン状図形」の左右に「紐状図形」を、最下段に「MEDAILLE D'OR」と「PARIS 1875」の二段の文字を表した構成よりなっている。

ロ 引用商標

原告は、登録第一八五九一七三号を基本商標として引用しているが、これは、別紙(2)に示すとおり、赤色輪郭線で「五稜星」を描いた図形商標である。

なお、原告は、同登録商標に連合する多くの商標を登録している(甲第四号証の一ないし三の各一ないし三、同号証の四ないし一六の各一、二)ので、これも引用する。これらの商標は、輪郭線、塗りつぶし、文字との結合、図形との結合等、多様なものが類似として取り扱われているが、すべて「五稜星」の図形を含み、「五稜星の外観」、「ホシまたはスターの称呼」、「星の観念」で共通しているものである。

ハ 本件商標の要部

本件商標は、前記構成のとおり、大きく五つのブロックよりなり、「地色」及び各「文字」が独立して表されている構成となっている。

特に、中央の「黒色地」リボン形状は、登録第六四二一九七号(甲第五号証の一、二)を表示したもので、該部分が周囲の配色と異なる一つの纏まりある図形を構成し、明らかに一要部を形成しているとともに、この五つのブロックを明確に区切っている。

被告も、「黒色地」部分が、独自の登録部分であることを主張するためのの記号を付しており、これを要部と認識したことにより連合商標として取り扱っているのである。

ちなみに、一つの纏まりある登録商標に近接して「」または「登録商標」「TRADE MARK」等の登録表示を付すことは、一般にも多くみられるところであり、特に「登録」と「商標」または「TRADE」と「MARK」等の文字で挟持した場合、その挟持された部分を独自の「マーク」と主張して使用するのが通常である。(甲第六号証の一ないし七の各一ないし三、同号証の八ないし一〇の各一、二)

また、瓶や缶に充填する商品のラベルが、多角形、円形等の対称輪郭である場合、中央にメインの商標を付し、その上部にハウスマークを表すのが通常で(甲第七号証の一ないし一二)、本件商標にあって、上部「白色地」部分にある赤色太線で表された「五稜星」図形は、下段の「白色地」部分の複雑な模様と異なり、カマボコ型周囲の文字を単なる輪郭として表示し、白地部分が多く形成されているため、全体の濃色に比べ際立って目立つ中心的な存在となっているものである。

さらにまた、酒類、特に商品ビールのような円筒形状の容器に付されるラベルは、湾曲して貼付されるため、その中心部の表示価値は高く、商品展示の際にも正面が明確なため、センター部分に次いで指標力が強く、ペットネームやハウスマークを表示する絶好の位置となっているものである。(甲第八号証)

ニ 本件商標と引用商標の類否

本件商標の赤色輪郭で表された「五稜星」の図形は、前記のように、ラベル形状中に融合して埋没してしまうような部分ではなく、輪郭線の太さからも、他の赤色部分より明確に目に映じ、独立した一要部を形成しているものである。

この赤色「五稜星」図形は、各稜の内角度は同一であり、輪郭線の太さ、赤色の明度、彩度まで引用商標と相似形といえるものであり、外観上明らかに類似する。

また、その称呼「ホシ」「スター」及び観念「星」は、引用商標のすべてと共通するものであり、何れの点から考慮しても明らかに類似する商標といわざるを得ず、したがって、商標法四条一項一一号に該当する。

ホ 審決の判断の基本的誤り

① ラベル的商標と類否判断

審決は、本件商標について、全体がラベル的印象を与えるから、一体的に融合して見え、その中にある星の図形部分は装飾的な部分との印象を強く与えると、認定判断している。

原告においても、本件商標がそのままラベルとして使用する意図のもの、つまり、審決でいう「全体としてラベル的印象を与える」ことを否定するものではないが、商標自体が「ラベル」として認識できるということと、各個別の部分から独立した外観、称呼、観念が生ずるか否かということとは全く別のことであって、直接の理由となるものではない。

一般的にも、瓶、缶等に付されるラベルは、その「メーカーの社名」「ハウスマーク」「個別ペットネーム」等の各個別の要部を輪郭線等で囲み、それぞれが一体的デザインとして融合するよう工夫するもので、ラベル全形が全体に融合して見えることは当然であり、昨今の商業デザインの隆盛に鑑みても、これが散漫に見えることのほうが希有といわざるを得ない。

このような場合であっても、各要部はそれぞれの意味合いをもって配置され、それぞれの表示内容が個別に理解できるよう工夫してデザインされるのが通常であって、本件では、これら各部の一体的纏まりを評価するための争いではなく、ラベルデザイン中の「上段の」、「輪郭線で独立的に囲まれた」、「最も目立つ白抜き地の」、「通常ハウスマークを表示する位置に」、「TRADEとMARKの欧文字で挟持して強調した」、「他と異なる太線の目立つ赤色を用いた」『星の図』を描いた部分が、他と独立した構成要素として、一つの『要部』となった独立した「マーク」として、目に映ずるか否かを争うものである。

② 「TRADE」「MARK」の文字との記号の使用について

本件商標は、ラベル全形の商標よりなるも、中央上段の最も目立つ部分に「五稜星」のマークを配し、その左右に「TRADE」「MARK」の欧文字を表示している。同商標の他の要部である中央の「Heineken」の欧文字右上には、これも独立しての文字が付されている如く、該「五稜星」部分も明らかに一要部を構成し、これを強調する意味合いで「TRADE」「MARK」の欧文字が付された構成となっていることは否定し得ない事実である。

原告は、この主張を審判手続においてなし、一つの一体的なラベル商標に「TRADE MARK」とに二通りの「登録表示」または「使用商標の主張」を行うことの不自然性、及び、ラベル中央において「TRADE」「MARK」の文字で挟持し、図形を表示する場合、一般的にそのメーカーのシンボルマークを表示するのが通常である旨の社会通念を指摘したにもかかわらず、審決は、この点を全く無視し、判断を脱漏した。

(二)  商標法四条一項一〇号、同一五号該当について

イ 周知性

原告は、現存する登録商標としては、登録第四四八八四七号(甲第四号証の二の三のB)と同一の赤色で塗りつぶした「五稜星」のマークを、明治九年の創業当時より一二〇年間にわたり一貫して使用している。

本件商標の出願された昭和五五年七月一〇日当時はもちろん、本件商標が登録された昭和五九年三月二二日当時においても、原告の「商品商標」並びに「ハウスマーク」として、各商品に使用し、ビール業界において二〇%前後のシェアを保ちながら、日本全国に販売し、その宣伝広告費は、昭和五五年当時で五〇億円、昭和五九年当時で一一〇億円を上回る極めて巨大な金額を投じ、テレビ、新聞等を通じ著名性を維持しているものである。

ロ 出所の混同

本件商標の中央上部に赤色輪郭で表示された「五稜星」の図形は、「アカボシ」「レッドスター」の称呼はもちろん、単なる「ホシ」「スター」の称呼をも生ずる図形であり、「赤い星」または単なる「星印」の観念も生ずる図形である。

特に、原告は、ハウスマークとして商品ビールをメインに製造、販売し、「アカボシ」「レッドスター」「ホシ」「スター」の称呼を生ずる前記図形、及び、「赤い星」「星印」を使用しているもので、これら称呼、観念は本件商標と全く同一であるため、出所の混同が生ずるおそれは明確である。

まして、本件商標の中央上部は、前記の如く、ハウスマークを通常表示する位置であり、原告も、殆ど同様の位置にこれら称呼、観念を生ずる商標を表示してきたところである。

したがって、原告の約一世紀にわたり醸成してきた、原告使用商標の指標力を希釈、滅殺することはもちろん、原告の系列であるか、または、技術提携、販売提携等の何らかの関連を有するものであるかの如き印象を取引者、需要者に与えること必定の商標で、これは、本件商標の出願当時はもちろん、登録当時も同様であるため、商標法四条一項一五号に該当するものである。

ハ 審決の判断の基本的誤り

原告は、審判手続において、本件商標が請求人の使用する「五稜星」の商標と出所の混同を生ずること必定の商標といわざるを得ないと、わざわざ「請求人の使用する」なる語を冠して主張し、昭和四〇年審判第六七二六号審決を証拠として提出したもので、原告が市場において永年現実に使用している「赤地の五稜星」に基づいて出所の混同を主張したものである。

審決は、「職権をもって調査」したと述べているのであるから、当然に「赤地の五稜星」の関する周知、著名性を理解できたはずであるにもかかわらず、そのような事実を無視し、原告の「現実使用の商標」と異なる、類否関係を単純化するため原告が引用した、赤色の輪郭線で構成された五稜星(登録第一八五九一七三号)の周知性判断を行い、事実誤認の判断をした。

第三  請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一、二は認めるが、同三は争う。審決の認定判断は正当である。

二(1)  商標法四条一項一一号該当について

イ 本件商標の要部

本件商標はいわゆるラベルデザインによる商標であって、文字、図形を結合させた商標である。かような結合商標の場合、商標は全体的に観察されなければならず、各構成部分は、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合、その一部だけを抽出して、その部分によってのみ、当該商標の称呼、観念が生ずるとすることはできない。

本件商標の五稜星図は、ラベル的商標中に不可分として一体をなしているものであって、その商品の高品質であることを、一般的に星のもつ同一のイメージをもって表すにすぎず、本件商標中、付加的、装飾的なものである。したがって、本件商標につき、五稜星図があるからといって「星」「スター」としての称呼、観念は生じない。

原告の主張するように、ラベル的商標の中で、一つの図形が「上段の」「輪郭線で独立的に囲まれた」「目立つ白抜き地」に描かれる場合、その図形を特に際立たせる意図のある場合に、このような指摘が意味をなし、その図形が観察者に強い印象を与える。

しかるに、本件商標においては、後述する如く、強い色調の緑色の楕円枠内及び中央リボン状の黒色枠内に「HEINEKEN LAGER BEER」「Heineken」の欧文字を記し、これを強調しようとするものであって、その結果上下二段の余白として白地部分が生じているにすぎない。余白を白地としているのは、まさにその外枠たる緑色及び黒色を強調するためと受けとられる。すなわち、五稜星図を本件のラベル的商標中、要部として強調するために、上段に白地部分を設け、その図形のために、輪郭線で独立に囲ったものではない。さらに、本件商標中、上段の白地部分は「最も目立つ」位置ではなく、また、観察者にそのような印象を与えるものでもない。あえて、本件商標中で観察者に強い印象を与えるものは、まさに、中央黒色のリボン枠の「Heineken」の欧文字であり、楕円輪郭の緑色で囲まれた「HEINEKEN LAGER BEER」という欧文字の部分である。

また、原告は、五稜星の図形を「他と異なる、太線の目立つ赤色を用いた」としているが、「他と異なる」のは、中央白地部分の赤色で描かれている文字及び図形に比し、多少太めの赤色の線を用いて描いているのであって、その色調は薄く、他の上記指摘の緑色、黒色の図形及びその中に記されている欧文字に比べ、その与える印象は薄く、際立たせるものとはなっていない。

以上から、本件商標中五稜星図形は、原告のいう「要部」となっているものではない。

ロ 「TRADE」「MARK」について

本件商標中の五稜星図の左右に付されている「TRADE」「MARK」の文字は、それによって挟持された五稜星図を要部として強調しているものではない。本件商標は、「ラベル商標」であって、全体を一体としての登録商標として認識されるもので、「TRADE」「MARK」の欧文字は、このラベル商標全体についての表示である。一般人の認識としても、この「TRADE」「MARK」の表示は、全体のラベル商標を商標として意識できるものであって、この全体のうち、特に五稜星図だけを抽出し、そこを要部として意識させることの表示とはなっていない。

さらに、原告の掲げる甲第六号証の各商標例の写真をみれば、各商品ラベルが全体としてラベル商標となっているものではない。そのラベルのうち、特に登録した商標のみを抽出し、そこを強調しようとする表示方法であって、本件商標とは全体的にその表示の仕方が異なるものといえる。

また、甲第六号証の他の商標例のうち、「登録」「商標」または「TRADE」「MARK」の文字で挟持されている商標は、登録商標という文字で挟持されているがために強調され観察者の注意を惹くものではなく、商標そのものに特徴があるために、そこだけ強調されたものとして意識されるものである。本件商標中においては、五稜星自体に特徴があるのではなく、それ以上に、中央リボン枠の「Heineken」の欧文字に注意が惹起され、星印は、一般的な「夜空に輝く星」または「商品の品質誇称表示」程度に認識され、付加的、装飾的なものになっているにすぎない。

ハ 本件商標における五稜星図の意味

本件商標の五稜星図は、商標の「要部」とはいえない。本来「星」に対しては、一般的に、清冽、静謐、清潔、純粋のイメージが抱かれ、このことから、純質、高級、上質なものと意識される。このため、古来「星」の図形は、星本来の形である五稜星をはじめ、自動車のベンツの商標たる三叉星のように装飾化されたもの等、多数商標として使用されている。(乙第一号証)世界各国の国旗等に「星」の図形が使われる例も多い。(乙第二号証)

すなわち、星の図形自体は、そのイメージされる観念から一般的に図形等に使われることが多く、ましてや星の一般的な形である五稜星等は、図形自体に自他の識別力は希薄であるといえる。このため、ラベル商標等に使われる場合、商標中の他の強力な色調、図形、文字により印象が相殺され、商標中に融合されて見える例が多い。本件商標中の五稜星図もまさにその例である。

本件商標中の楕円輪郭内及び中央のリボン状の横枠で仕切られた上下の白地部分にみられる赤色の文字、図形は、被告製造のビールが長い伝統に基づく高品質のものであることを表している。まず、上部白地部分のうち「HORS CONCOURS MEMBRE DU JURY PARIS 1900」の文字は一九〇〇年にパリ博覧会で特別審査資格を得たことを、「GRAND PRIX PARIS 1889」は一八八九年パリ万国博覧会でグランプリ獲得を、下部白地部分のうち「DI-PLOME D'HONNEUR FUR AM-STERDAM 1883」は一八八三年アムステルダムの博覧会において名誉称号獲得を、「MEDAILLE D'OR PARIS 1875」は一八七五年パリの博覧会において金賞獲得を、それぞれ表している。

これらの表示は、ハイネケンビールの伝統と高品質を示し、これらの文字に囲まれ、同一色調の赤色で表示される星字形は、星のイメージと相まって高級感、高品質を表すものである。

(2)  商標法四条一項一〇号、同一五号該当について

イ 本件商標の周知、著名性

被告会社は、一八六四年オランダ国アムステルダムに創設され、以来一世紀以上にわたり、ビールの醸造及び販売を続け、今では、世界一五〇か国以上の国で愛飲され、約六〇社の海外提携企業をもつ世界的規模のビールメーカーとなっている。因みに、ハイネケンビールは、世界のビール会社の売上数量の第二位を占めている。(乙第八号証)

創設当初のビールのラベルは、「HEINEKEN」の表示とともに、図形及び五稜星図が付加されていた。(乙第四号証の二、一A頁)

被告は、一九六一年日本における輸入ビール市場が開放されるとともに、日本に進出したが、当時から本件商標と同一の商標が使用されていた。すなわち、少なくとも、約三〇年以上にわたり、五稜星図を付加した本件商標は、被告製造のビールを表す商標として使用され続けている。(乙第五、第六号証の各一、二)

ハイネケンビールは、一九八〇年には当時の輸入ビール売上げで第一位を示し、一九八三年日本のビール製造及び販売で第一位のシェアを占めていたキリンビール株式会社と業務提携するとともに、ハイネケンジャパン株式会社を設立し、一九八四年以降キリンビール株式会社よりハイネケンビールの国内ライセンス生産が開始され、国産ビールとなるとともに、両会社の積極的な宣伝、販売活動により、販売量は増加の一途をたどった。この、輸入ビールから国産ビールへの転換、キリンビール株式会社による国内ライセンス生産を通じ、一貫して本件商標が商品に付加されてきた。(乙第七、第九号証)

過去二年間(一九九三年、一九九四年)のビールの海外ブランドの日本国内の販売状況をみれば、バドワイザー、ハーゲンブローに続いて第三位である。(乙第一〇号証)

ハイネケンジャパン株式会社による、ハイネケンビールの広告宣伝に費やされた費用は、一九九〇年は一億五八八万円、一九九一年は一億七二四八万円、一九九二年は一億一七七九万円、一九九三年は一三億九三二五万円、一九九四年は一一億六一一三万円である(乙第九号証)

このように、本件商標は、ラベル商標として、「Heineken」の文字とともに、付加、装飾的に五稜星図を付したものとして、取引者、需要者に観念を定着させ、引用商標とは区別され、原告の商品とは、その出所につき誤認混同を生じさせていないことは明らかである。

ロ 出所の混同

本件商標中、五稜星図形は商標の要部とはいえず、「ホシ」「スター」の称呼及び「星」の観念は生ぜず、引用商標と類似しないとすれば、その各商標についての出所の誤認、混同が生じないことは明らかである。

さらに、実際の取引において、両商標の指定商品となっている「ビール」は、一般にメーカーブランドで取引されている。すなわち、原告はサッポロビール、その他アサヒビール、キリンビール、サントリービール等である。また、ビールの種類については、生(ドラフト)ビール、ラガービール、ライトビール等で取引されるのが実情である。たとえ、原告の星印が著名であったとしても、原告の商品が「サッポロスタービール」または「ホシビール」「アカボシビール」とは意識されず、このような称呼、観念のもとに取引され、注文、消費されることはない。この点は、被告のビールについても同様である。

この点においても、原告主張のような誤認、混同は現実に生じていないし、また、生ずる可能性もない。

第四  証拠関係

本件記録中の証拠目録の記載を引用する。

理由

第一

一  請求の原因一項(特許庁における手続の経緯)、同二項(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、同三項(審決の取消事由)について検討する。

(一)  商標法四条一項一一号該当について

イ 本件商標は、別紙(1)に示す構成からなり、緑色に着色された三本の縦型の楕円輪郭のうち、特に太く描かれた中央の楕円輪郭線内に「HEINE-KEN LAGER BEER」の白抜き欧文字を上下対象となる位置に表示し、この楕円輪郭の中央を横切るように黒く塗られたリボン状の横枠を配し、その内に白抜きで「Heineken」の欧文字とその右肩にの記号を表示し、さらに、楕円輪郭とリボン状の横枠との間にできた上下の白抜き部のうち、上部の白枠内には、枠の輪郭に沿って淡紅色で「HORS CONCOURS MEMBRE DU JURY PARIS 1900」「GRAND PRIX PARIS 1889」の欧文字を表示し、その中間部の白地部分に淡紅色の実線で描かれ内側を白抜きにした五稜星図を配し、その左右に淡紅色で「TRADE」と「MARK」の欧文字を表示し、そして、下部の白枠内には、同じく淡紅色で上段に「DIPLOME D'HONNEUR」と「AMSTERDAM 1883」の二段の欧文字を表示し、中間部の白地部分には赤茶色で一部を重ね合わせたコイン状図形と、その左右に紐状図形を配し、下段に淡紅色で「MEDAILLE D'OR」と「PARIS 1875」の二段の欧文字を表示したものである。

これに対し、引用商標は、別紙(2)に示す構成からなり、赤色の実線で五稜星の輪郭を描き、その内側を白抜きにしたものである。

ロ 一般に、商標の類否は、対比すべき両商標の全体を観察して外観、称呼、観念において共通するか否かを検討してなされるべきであり、そのいずれかにおいて相紛わしいため、商品または役務の出所につき誤認、混同を生ずる場合には、両商標は類似の商標とされるが、当該商標の構成中に全体としての一体性が弱く、あるいは、付加的であって、これを看る取引者、需要者の注意を惹かないと認められる部分があるときは、これを除いた要部について観察してなされるべきである。

そこで、要部について検討するに、本件商標は、図形と欧文字との結合よりなるものであるところ、緑色の楕円輪郭と黒色のリボン状の横枠は、他の淡紅色または赤茶色で表示されている一連の欧文字、五稜星図、コイン状図形、紐状図形をバランス良く内側に取り囲んでおり、全体としてラベル的デザインとなっているということができる。そして、これらの淡紅色または赤茶色で表示されている欧文字及び図形部分は、楕円輪郭とリボン状の横枠の中に一体として融合し、本件商標のラベル的構成の装飾的部分としての印象を与えるというべきである。

本件商標のこのような構成からして、これを看る取引者、需要者は、緑色の楕円輪郭図とその中に白抜きで顕著に示された「HEINEKEN LAGER BEER」の欧文字、及び、黒色のリボン状の横枠とその中に白抜きで顕著に示された「Heineken」の欧文字に注意を惹かれるものと判断され、本件商標の要部は、これらの部分であると認められる。

これに対し、引用商標は、赤色の実線で五稜星の輪郭を描き、その内側を白抜きにした構成であって、その全体が商標の要部をなしている認められる。

ハ  そこで、前記ロの要部認定に基づき、本件商標と引用商標とを対比すると、両商標は、その外観を全く異にするものであることは明らかである。

そして、引用商標からは、その構成に照らし、原告の主張する「ホシ」「スター」の称呼が生じ、「星」の観念が生じるということができるが、本件商標からは、上記顕著に示された欧文字から「ハイネケン」もしくは「ハイネケンラガービール」の称呼のみが生じ、その構成からは取引者、需要者に認識し得る格別の観念は生じ得ないというべきであり、また、「ホシ」「アカボシ」「スター」「レッドスター」等の星に関係する称呼、観念は、格別、生ずるものとは認め難いから、両商標は、称呼、観念においても全く異なるものというべきである。

ニ 原告は、本件商標中の五稜星図は、ラベル的デザイン中の「上段の」、「輪郭線で独立的に囲まれた」、「最も目立つ白抜き地の」、「通常ハウスマークを表示する位置に」、「TRADEとMARKの欧文字で挟持して強調した」、「他と異なる太線の目立つ赤色を用いた」『星の図』を描いた部分であって、他と独立した構成要素として一要部である旨主張する。

しかしながら、本件商標の前記ロ認定の構成態様に照らすと、本件商標のうち、上部白枠内に描かれた淡紅色の五稜星図は、特に看者の注意を惹くものとはいえず、これを要部であるとすることはできない。この淡紅色の五稜星図は、「星」の持つ「夜空に輝く星」といった美しいイメージ、「トップスター」といった優れたイメージを付加するためにラベル的デザインの中に組み込まれたものと認められ、原告の前記主張は採用できない。

原告は、また、ラベル中央において「TRADE」と「MARK」の文字で挟持して図形を表示する場合、一般的にそのメーカーのシンボルマークを表示するのが通常である旨主張するけれども、「TRADE」と「MARK」の文字で挟持された図形のすべてについて、そのように認めることはできないし、本件商標のように、緑色の楕円輪郭図及び黒色のリボン状の横枠と、それぞれその中に記された白抜きの文字が看者の注意を惹き、五稜星図を含めた淡紅色または赤茶色の図形及び文字部分はラベル的デザインの中に融合するように使用されている場合においては、五稜星図が「TRADE」と「MARK」の文字で挟持されているからといって、原告主張のように解することはできず、本件においては、この「TRADE」「MARK」の欧文字はラベル全体に関する商標登録の表示であると判断されるものである。

原告提出の甲第六号証の一ないし七の各一ないし三、同号証の八ないし一〇の各一、二(写真、商標公報、商標登録原簿写し)、同第七号証の一ないし一二(写真)は上記認定判断を覆し得るものではない。

原告は、さらに、一つの商標の中に、五稜星図を「TRADE」「MARK」の欧文字で挟持し、その他に「Heineken」の欧文字の右肩にもの記号を記し、二通りの「登録表示」または「使用商標の主張」を行うことは不自然である旨主張するけれども、一つのラベル的デザインの中で、そのような二つの表示を行うことが、不自然であって考え得ない使用方法であるということはできないから、原告のこの主張も採用することはできない。

ホ 原告は、本件商標に連合する多くの商標を登録しているので、これらの商標をも引用する旨述べるところその具体的請求の理由については明らかでなく、また、成立に争いのない甲第四号証の二、三の各一ないし三、同号証の四ないし一六の各一、二(商標登録原簿写し、商標公報、写真)により認められるこれらの登録商標の構成を本件商標の構成と比較してみても、前記認定判断に徴し、その外観、称呼、観念のいずれの点においても、類似するものと認めることはできない。

ヘ 以上のとおり、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼、観念のいづれの点においても相紛れることのない非類似の商標といえるから、本件商標が商標法四条一項一一号に該当するということはできない。

(二)  商標法四条一項一〇号、同一五号該当について

イ  前示(一)認定のとおり、本件商標と引用商標とは、明らかに外観、称呼及び観念において区別し得る別異の商標である。

したがって、引用商標それ自体が原告の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であると認めるに足りる証拠は存しないばかりでなく、原告主張の五稜星図を付した商標が原告の業務に係る商品を表示するものとして周知であるとしても、本件商標が当該商標とは同一ないし類似の商標とはいえないことは前記判示から明らかであるから、本件商標は、四条一項一〇号に該当しないというべきである。

ロ 原告は、登録第四四八八四七号と同一の赤色で塗りつぶした「五稜星」のマークを、明治九年の創業当時から一二〇年間にわたり一貫して使用している旨主張するところ、成立に争いのない甲第四号証の二の一ないし三(商標登録原簿写し、商標公報、写真)、同第九号証(報告書)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、その主張する登録商標を有し、明治九年の創業以来赤色で塗りつぶした五稜星のマークを、戦時中の一時期を除いて、原告の製造、販売するビールのラベルに使用してきたことが認められる。

しかしながら、商品「ビール」についての実際の取引においては、一般的にいって、サッポロビール、アサヒビール、キリンビール、サントリービールといったメーカーブランドで取引され、また、種類については、生ビール、ラガービール、ライトビール等に区別されて取引されていることが実情であることは、当裁判所に顕著な事実である。

原告は、原告の製造、販売するビールは、「アカボシ」「レッドスター」等と称呼されると主張し、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一一号証(報告書)、第一二号証の一、二(証明書)中には、原告の商品「サッポロラガービール」について、ラベル中の赤い五稜星図により「アカボシ」と称呼されて取引されることがある旨の記載があるけれども、これらの証拠によっては、未だ原告の製造、販売するビールが、一般的に取引者、需要者に「アカボシ」「レッドスター」等と称呼されていると認めるに至らないというべきである。

また、仮に、一部の取引者、需要者間でそのように称呼されているとしても、被告の使用している本件商標が「アカボシ」ないし「レッドスター」あるいは「ホシ」「スター」等の称呼をもって取引されるとの証拠もない。

さらに、赤色の実線で描かれ、中を白抜きにした引用商標の五稜星図が、被告の製造、販売するビールのラベルに使用されたことを認め得る証拠はない。

前記甲第九号証(報告書)によれば、原告の主張するように、原告は、日本のビール業界において二〇%前後のシェアを占め、その主張するような多額の宣伝広告費を投じていることが認められ、また、成立に争いのない乙第五号証の二(パンフレット)、同第六号証の二(パンフレット)、同第七号証(「世界の銘酒」と題するガイドブック)、同第八号証(キリンビール株式会社の作成した「営業統計資料集」)、同第九号証(報告書)、同第一〇号証(原告の作成した「販売状況表」)、同第一一号証(原告の宣伝パンフレット)、弁論の全趣旨により成立の認められる同第四号証の一、二、(報告書、ブランドマニュアル)、同第五号証の一(報告書)、同第六号証の一(報告書)によれば、被告も、日本のビール業界において海外ブランドとして第三位の販売量を占め、その主張するような多額の宣伝広告費を投じていることは認められるのであるが、本件商標もまた被告の業務に係る商品を表示するものとして周知であり、その構成は原告の使用する商標とは外観、称呼、観念において顕著に異なっているから、上記のような事実が、原告及び被告の業務に係る商品ビールにつき何らかの混同のおそれを生じさせることを窺わせるものもない。

原告は、本件商標に連合する他の登録商標をも引用する旨述べるけれども、前示(一)ホ判示のとおり、その具体的請求の理由は明らかではないが、何れにせよ、これらの商標と本件商標とが原告及び被告の業務に係る商品ビールにつき混同のおそれを生じさせるものと認めることはできない。

以上のとおり、本件商標が商標法四条一項一五号に該当するということはできない。

(三)  以上のとおりであって、原告主張の審決の取消事由は、いずれも理由がなく、審決に原告主張の違法は存しない。

第二  よって、原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官竹田稔 裁判官関野杜滋子 裁判官持本健司)

(別紙)

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